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2020年10月18日 (日)

娯楽

輿論(よろん)は常に私刑であり、私刑は又(また)常に娯楽である。
                  (芥川龍之介『侏儒の言葉』より)

芥川龍之介の言葉に出会った。

世間には「私刑」があふれている。

「私刑」とは、法律によるわけではない、個人的感情から起こる制裁のこと。

○何らかの罪を犯した人がいる。

○法を犯す罪を犯したわけではないが、“私”にとって気に入らないことをした人がいる。

○その人が何かをしでかしてしまったわけではないけれど、“私”の目には、とても恵まれた人生を送っているように見える人がいる。

そのような人に対して、自分を高みに置いて、制裁する 断罪する やっかむ「死刑」。

数年前までは、自分の仲間内で、話の種 酒の肴ていどで他者を裁いていたものが、

ネット環境 SNS等の普及により、他者を裁くつぶやきが地球全体に行き渡ってしまう。

○たとえ実際に罪を犯した者に対してであっても、第三者に制裁する権利はない。

○私の正義に反する者ではあっても、断罪する道理はない。

○やっかみは、決して他者が悪いわけではない。

質(たち)の悪いことに、情報が正しかろうが間違っていようが、「私刑」執行者にとってそんなの関係ない。

「私刑」は、自分の怒りやモヤモヤした感情が発散できればいいのだから。

それゆえに、「死刑は又(また) 常に娯楽である」のだろう。 

さて、「輿論(よろん)」は見慣れない言葉だと思う。現代では「世論」という書き方が一般的だから。

「輿論」「世論」とも「大衆の声」を意味するが、「輿論」と「世論」は似て非なるものである。

「輿論」は「パブリック・オピニオン」(公衆の意見)を意味する。

「輿論」と表わされる「大衆の声」の背景には、確固たる「意見」「信念」「思想」がある。

「世論」は「ポピュラー・センチメント」(一般的な気分)を意味する。

「世論」と表わされる「大衆の声」に、確固たる「意見」「信念」「思想」は・・・ない。

時代状況や社会の空気、個人的気分に左右されて ものを言う。

深く考えるという作業もなく時代を嘆き、自分以外の者のせいにし、他者を貶(おとし)め、楽な方に流れる。

「世論」の意味を知ると、果たして「世論調査」の結果とは、信用に足るものだろうか。

さて、

ここまでの説明からすると、「世論は常に私刑であり、」の方が文章の通りがいい気がする。

けれど、芥川龍之介は「輿論」と書いた。

○「輿論、確固たる信念に裏打ちされた意見もまた “私刑” である、」とも読めるし、

○芥川龍之介在世当時は、「世論」とは言わず「輿論」と言うことの方が一般的だったかもしれないから、現代でいう「世論」と同じ感覚で「輿論」と書いたのかもしれない。

芥川龍之介の意図は分からないが、

言葉の意味として「輿論」と「世論」は明確に違うものである。

○現代、私たちは「世論」の多数意見に合わせることによって、自分の正当性を保とうとしてはいないだろうか(そこに、自分の意見はない)。

○「世論」の多数意見を是として、少数意見を非としてはいないだろうか。

○「世論」の少数意見を見下してはいないだろうか。

その態度はよくないし、そもそも「世論」は 空気を読んでのもの、気分的なもの。

情報の多い世の中、何が正しい情報で、何が間違った情報かわからないことが多い。

不明確な面が多い。

ということは、空気や気分に流される声もまた不明確で、根っこがない。

ひとつの情報に左右されるのではなく、いろいろな側面から見た情報にふれ、

自分が思ったこと 感じたことは、率直に「意見(オピニオン)」として語れば、

自分とは違う「意見(オピニオン)」から発見を得ることもある。

「輿論」は、そういうところから醸成(酒や味噌が醗酵するかのように物事が徐々に作り出されてゆく)されてくるのだと思う。

そういう意味で、「輿論は娯楽である」ということに辿り着くような気がする。

知り、考え、感じ、語る。そこからまた、知り、考え、感じ、語るということが生まれて来る。

そのことは、人間にとっての「娯楽」である。
(芥川龍之介が言おうとしたことからは、おそらくかなり離れていると思う。それもまた善哉善哉)

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