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2008年11月24日 (月)

善人なおもて往生をとぐ いわんや悪人をや

 善人なおもて往生をとぐ
  いわんや悪人をや
        
          親鸞聖人
 
「善人でさえも往生できるのだから、悪人が往生できるということは言うまでもないことです」
 
人は、自分を「善」と思ってしまいます。
言い合い・喧嘩・戦争は、善と悪との戦いではありません。善と善との戦いです。「私の方が正しい」という主張のぶつかり合いです。お互いに自己の正当性を主張して譲らない。自己の正当性、つまり(自分にとっては)善。自分を善に置いています。その善と善とがぶつかり合い戦うのです。
 
仮に、100%あなたが言っていることが正しいとしましょう。あなたの主張を相手にぶつける。あなたが正しければ正しいほど、その主張をぶつけられた方は逃げ場を失います。そうすると、余計にあなたに反抗するか、自分を傷つけるしか道がなくなってしまいます。あなたがどんなに正しくても、あなたが正しければ正しいほど、相手を傷つけるものです。そのことを知っていて欲しい。
 
言い合い・喧嘩・戦争とは対極の、仲良しということを考えてみても、共通の敵がいるからこそ表向きの仲良しを演じられるということもあります。また、仲良しどうしが集まると、必然的に仲間外れを生み出すという現実もあります。
 
「善」って、善いことのように思ってしまうけれど、「善」の背景には、相手を傷つける闇が潜んでいます。
「悪」って、悪いことのように思ってしまうけれど、「相手を傷つけている私」だということを知っていることを意味します。
 
「悪」とは、ルールを破ったり、人のものを盗んだり、人を傷つけたり、人を殺してしまうことを意味するのではありません。
私はルールを守っている、人のものを盗んだことなんかない、人を傷つけたことなんかない、人を殺すなんてするはずがない。そう思っている人はたくさんいることでしょう。
 
けれど・・・
本当に全てのルールを守っていると言い切れますか? そのルール(約束事や法律など)も、一部の関係性の中で作られたもの。ルールを守るということは、その関係性から外れている人々を苦しめているのかもしれない。
 
あなたがそこにいるという事実は、そこにいられない誰かがいるという事実を含んでいます。たとえ物は盗んでいなくても、その人の居場所を奪っているかもしれない。
 
誰も傷つけていないつもりかもしれないけれど、あなたのことを想って悲しみ(慈悲)の涙を流してくれている人がいるものです。私のためにこころ痛めてくれている人がいる。その事実に気付けない私は、その人の想いを傷つけているのではないでしょうか。
 
「あいつさえいなければ」「あいつが邪魔だ」「あいつが鬱陶しい」と、誰かを否定するようなことを考えたことはありませんか? ということは、その人の存在を認めていないということです。つまり、想いの中で人を殺めているのです。行為としては殺していなくても、想いの中で、知らないうちに人を殺めているものです。
 
これだけ書き連ねると、ちょっとつらいですね。
でも、人が人として生まれ、人として生きていくということは、このような事実があるのです。あなたは、その事実を知らずに「善」として生きますか? それとも、そのような私であるという「悪」の自覚を持って生きますか?
いつまでも「自分は善いことをしている、人に迷惑をかけていない、人を苦しめていない」と思い込み続けながら、これからの人生を歩んでいきますか? それとも、迷惑をかけながら生きている事実を胸に、人生を歩んでいきますか?
 
だからと言って、「善」を捨て、「悪」の自覚を持つ人になりましょうというのではありません。私たちの本質はいつまでも「善」なのですから。「悪」の自覚を持ったと喜んでいるそのことが「善」に陥るのです。私は「悪」の自覚を持った。他の人はまだ「善」だ、と。
 
「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」
・・・善人でさえも救われるのだから、悪人が救われるのは言うまでもない・・・つまり、生きとし生けるものすべてが救われるということ。
このおことばは、救われるためにどうあるべきかを説かれたおことばではなくて、人間の本質に気付いて欲しいという親鸞聖人の、阿弥陀如来(真宗のご本尊)の願いだと思うのです。
 
私が生きているということは、いや、亡くなってからも他人(ひと)に迷惑をかけるもの。それはごまかしきれない事実。でも、その事実に目を向けないで、周りの人々を悲しませるだけ悲しませながら生きますか? その事実の哀しみを抱えながら生きていきますか?
親鸞聖人のメッセージは、亡くなって後の救いを説いているのではなく、今生きている私の在り方を問うています。
 
     
 
真宗教団連合が出しているカレンダーがあります。
月めくりのカレンダーなのですが、毎月法語がついています。10月の法語が、「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」でした。
西蓮寺では掲示板にこのカレンダーを貼っているのですが、客観的にカレンダーを眺めていて、説明文のようなものが欲しいなと感じました。で、書いたのが上記の文章です。
文章をプリントアウトして、カレンダーと並べて貼っていました。
 
ある朝、通りすがりの方に声をかけられました。「この文章が気に入ったので、プリントしたものをいただけませんか?」って。
配布するつもりがなかったので、プリントしてませんでした。少しお待ちいただいて、パソコンを立ち上げてプリントして差し上げました。
10分ほどお待たせしてしまったでしょうか。「お待たせしてすみません」と言ったら、
「いえいえ。楽しいことって、待っていても楽しいものですね。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。ありがとうございます」というお返事。
「こちらこそ ありがとうございます」
しばらくお話して、笑顔でお別れしました。
 
「楽しいことって、待っていても楽しいものですね」
素敵なことばをちょうだいいたしました。ありがとうございます。
説明文を書いてよかったです。

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コメント

初めまして、「善人なおもて往生をとぐ いわんや悪人をや」を検索してこちらへと
流れて参りました。
こちらで書かれている、「人を傷付けてしまう『善』や『正義』について心打たれました。

私自身、幾度傷つけられたでしょう、そして知らぬうちに傷つけていたでしょう。
人からの言葉が正論であればある程気まずさを感じ、自分は到らない人間である、と
必要以上に落ち込んでいました。
どうしてだか自分でもわからなかったのですが、やっと理解できました。
逃げ場を失って自分を傷つけていたのです。
自分は素直に謝罪もできないあまのじゃくなのかと思っていました。
家族からの威圧的な言動に、苦しんでいました。

こちらの記事を拝見して、心が救われました。
心感謝いたします、ありがとうございました。

☆無憂華様 はじめまして
コメントをありがとうございます。
親鸞聖人の“善・悪”観は、現代の一般常識ではなかなか受け止めきれないものだと思います。
本当は、そんな難しいことではないと思うのですが、私たちの知恵が邪魔をしてしまいます。

私の拙文を読んで、心が楽になったご様子、よかったです。
(自分の親鸞理解が正しいと言っているわけではありませんが)

「自分は素直に謝罪もできないあまのじゃくなのかと思っていました」
誰だってそうです。自分の非は、なかなか認められません。
でも、自分の、そういう内面に気づくことができたことって、これからの財産だと思います。
コメントをお書きくださって、本当にありがとうございます。
そのことばは、自分自身に対することばでもあると思います。
また壁にぶつかったら、私の文章や、あなた自身のコメントに返ってきてください。

これからもブログに遊びに来てください。
お待ちしています。

初めまして。こまくさと申します。

実は、とあるところで拙いブログを続けております。
先日、思想家であり評論家でもあられる吉本隆明さんの言葉を記事にしました。
「親鸞の声について」という彼の講演で語られた言葉を取り上げさせていただいたのです。
正直、吉本隆明さんのことはほとんど存じ上げなかったのですが、
今の自分に痛いぐらいに響いた言葉でした。

それに関して、ある方からいただいたコメントの中に
「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」の言葉がありました。
どういうことなのか検索し、こちらに伺った次第です。


とてもとても納得しました。
深く深く心に染み入りました。

「人間の本質に気づいて欲しいという親鸞聖人の願い」というご説明に
有難い気持ちにさせていただきました。

☆こまくささま
初めまして コメントをありがとうございます
吉本先生のような深みはありませんが、ブログの文章がお役に立てて光栄です。

「人間の本質に気づいて欲しいという親鸞聖人の願い」
7、8年前の文章・・・たいそうなことを書いてますね。
そういう想いに変わりはありませんが、自分でもクスッと笑ってしまいました。

久しぶりに自分でも読み返させていただきました。ありがとうございます。

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