3.ある航海者
「人生」と名づけられた大海を航海する者がいます。
さまざまな苦難が待ち受ける大海原ではあるけれど、そこを渡った者のみが手に入れられる宝を目指して、航海を続けます。
ある日、不安の雲が天を覆い、あたりは真っ暗になりました。
そして、今まで見たこともない恐ろしい姿をした魔物が海中より現われました。
「俺はこの海で最も恐ろしい魔物である。貴様を食ってやる。それとも、俺以上に恐ろしいものを見たことがあるか?あるなら言ってみろ」
航海者は言います。
「見たことがあるぞ。人間の心の奥底に潜む、欲に狂い、怒りに燃える化け物を。それに比べれば、お前などまだまだ優しいものだ!」
それを聞いた恐ろしい魔物は消えてしまいました。
またある日、風が強く吹き、波が大きく、船が揺れ出しました。
そして、今まで見たこともない醜い姿をした魔物が海中より現われました。
「俺はこの海で最も醜い魔物である。貴様を食ってやる。それとも、俺以上に醜いものを見たことがあるか? あるなら言ってみろ」
航海者は言います。
「見たことがあるぞ。人間の奥底に潜む、羨み・恨み・嫉み・不平・高慢の化け物を。これらの醜さに比べたたら、お前などまだまだ美しいものだ!」
それを聞いた醜い魔物は消えてしまいました。
魔物も消え去り、平穏な航海が続いたある日、美しい姿をした魔物が姿を現しました。
「私はこの海に住む最も美しい魔物です。私にはあなたに対して何の害心もありません。どうか私の住む島へおいでください。あなたの求める宝を差し上げましょう。もう航海を続ける必要はないのです」
航海者は言います。
「ありがとうございます。私はあなたの美しさに疑いを抱いています。そして、あなたの美しさは見かけだけであることに気付きました。あなたの美しさは、飾っただけの美しさであって、生活の美しさではありません。本当の美しさは、生活の中にこそあるのです。生きている中にこそあるのです。航海をやめてしまったら、真の美しさを手に入れることはできません。ですから、私はあなたの島に行くことはできません」
この応えに満足した魔物は消えてしまいました。
航海者は「人生」という名の大海を航海し続けました。穏やかな日も、波の高い日も、嵐の日も。
航海を続ける中で、航海者は真の宝を見つけ、帰路についたということです。
魔物以上に恐いもの、醜いものの姿を思い浮かべてみてください。
そして、真の宝とはなんなのでしょうか。
航海者とは、実は私自身です。今現に「人生」という大海を航海しているのです。
どんな海が見えますか?
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もしかしたら、見るのが恐くて 目をつむっているのかもしれない そんな気がします
投稿: 美雨 | 2005年8月22日 (月) 23:40
☆美雨さん こんばんは
ご自分で「見るのが恐くて」って言われたということは、この航海者と同じ自覚が既に出来ているんだと思います。
投稿: かつ | 2005年8月23日 (火) 19:51
記事を読んで、色々考えてみました
どんな海なのかは考えが結べませんでしたが
海ではなく、自分の中から
思いもかけない魔物がどんどん出てきて
暴れまくってあっぷあっぷする・・・
そんなイメージが湧きました(汗)
でもこの魔物は、
「思いもかけない」んですけれど
実はよく知っている のかもしれないと思いました
投稿: fairmoon | 2005年8月23日 (火) 23:33
☆fairmoonさん こんばんは
里帰りは楽しめましたか?
魔物を、
「思いもかけない」自分とは別物と考えるか、
「実はよく知っている」自分自身の投影と考えるか。
恐くて、醜くて、上っ面だけ美しくて…。
そんな人を思い浮かべるとき、
誰かの顔を思い起こすのか、
自分の顔か。
投稿: かつ | 2005年8月24日 (水) 00:34